テーブルマナーの歴史

 

文献に残っている食事のマナーでもっとも古いものは、紀元前2500年ごろ、

古代エジプト・イセシ王時代のプタホテップの指導書にはこのように書かれています。

 

  • 「人々と一緒に食事をする場合には、目上の人に従いなさい」
  • 「皆が笑うときには、あなたも笑いなさい」
  • 「食事の席では決して自己主張することなく、上に立つ人の見方で物事を見なさい」

 

マナーの本質は思いやりの心。

人と人とが上手に付き合っていくための気遣いが大切であることが、

すでに4000年前の書物に書かれていたのです。

 

一人ひとり順番に料理が運ばれるようになったのは、18世紀になってからでした。

 

さて、時代は変わって紀元11世紀。ヨーロッパ各地のキリスト教徒は聖地エルサレムを異教徒から奪い返すために十字軍を創設しました。この軍隊は神の名のもとに立ち上がったというプライドと、騎士道の精神を何より重んじたといい、礼儀やマナー、エチケットには厳しかったとされています。そんな十字軍が各地に趣いたため、マナーやエチケットが広まったというわけです。

 

12世紀まで、ヨーロッパの人々の食事はローストした肉とゆでた野菜、そしてごく素朴なパンが主流でした。そんな中、イタリアのメディチ家とフランス王室の食事だけは、時の権力に呼応してどんどん豪華に、贅沢になってきました。当時の食卓のようすを、少しご紹介します。

 

当時は、きちんと確立したテーブルマナーらしきものはありませんでした。テーブルに並べられるカトラリーはナイフのみ、あるいはナイフとスプーンのみで、まだフォークは登場していません。すべての料理は一度にテーブルに並べられ、肉や魚の塊は大皿盛りで出されました。それを大きなナイフで切り分けるのは主人(ホスト)の役割。人々はそれを分け合って、手づかみで食べていたのです。この手づかみの食事作法は、王侯貴族でさえ例外ではありませんせした。

スープやソースなどの液体はパンに浸して食べ、汚れた手はテーブルクロスで拭く…という具合。従って、このような食事作法の中では、手指を清潔にすることが最も大切でした。

 

テーブルに着く順番(席順)も、また料理を出す順番も、現在のように厳しい決まりはありませんでした。あらゆる料理が一度の出され、並べられますが、一人ひとりのゲストが何を食べるかは、何よりも座った席によって決まってしまいました。全員に行き渡るように大皿を回したり、取り分けたものを配るということができなかったのです。ゲスト全員がすべてのメニューを食べるべきだとは、誰も考えていません。人々は自分の席から手の届く範囲の料理か、あるいは隣の人が取ってくれる料理だけを食べていました。

 

現在のように、会食者全員が同じものを食べ、メニューに載っているものを一通り口にする、一人ひとりに料理が順番に運ばれてくる、という形式は、「18世紀」になってようやく始まったことなのです。

 

 

 

フランス王家に嫁いだカトリーヌが世界最初のテーブルマナー本「食事作法の50則」を誕生。

 

13世紀に入ると本格的なマナーの書物が出版されるようになり、

そこには食事に関する項目も含まれていました。

  • 食べ終わった骨などは元の皿に戻さない
  • 食事中に鼻を鳴らしてはいけない
  • テーブルの上や周囲に唾を吐いてはならない
  • 鼻をかんだり、咳をするときはテーブルに飛ばないよう、後ろ向きで行う

 

14世紀に入ると、さらに内容は細かくなります。

例えば

  • 食事前には手を洗うこと
  • ナイフの先を楊枝がわりに使わない(当時、ナイフの先は尖っていたらしく…)

 

15世紀になると、いよいよ本格的なテーブルマナー専門の指南書が登場します。イタリアの名家・メディチ家のカトリーヌがフランスの王家に嫁いだ際、付き添ってきた料理長がフランスのテーブルマナーの野蛮さにおどろき、カトラリーの使い方などをまとめた「食事作法の50則」が生まれます。これが世界最初のテーブルマナー専門書だと言われています。

 

やがてこの本がイギリスなどヨーロッパ各地へと伝わり、テーブルマナーは広まっていきます。特にイギリスとフランスは自国のプライドにかけて、基本のマナーに独自のアレンジをほどこすようになりました。最終的には19世紀イギリスで、現代に伝わるテーブルマナーが確立したと言われていますが、フランス式とイギリス式でテーブルマナーが大きく違うのはこのためなのです。

 

 

作法やマナーは民族の風習や生活環境、食事の様式、宗教、地域などによってさまざまに異なるもので、世界共通のものではありません。また、マナーや作法は、その時代時代によって、刻々と変化するものだ、ということも忘れてはなりません。

 

 

 

日本のテーブルマナー

 

伝統的な日本の食事スタイルは、個々人の領域を重んじるものでした。一人ひとりが茶碗を持ち、皿や箸をそなえて自分だけのお膳を持っていました。そのお膳の前に座って食事するスタイルでは、家族同士でも食べ物を共有することはありません。今では懐石料理か和風旅館以外ではあまり見られなくなりましたが、こうしたスタイルが日本式の食事作法の起源となっているのです。

 

日本に初めて導入されたテーブルマナーは、前でも紹介したメディチ家付きのイタリア人シェフによる『食事作法の50則』でした。この本は今から500年近くも前の書物ではありますが、テーブルマナーの基本と理念はいまもこの本に根ざしています。また、マナーに求められる食事場面も、スタイルもさまざまに多様化しています。これからテーブルマナーを身につける人、または指導する人は、基本をしっかりとふまえつつ、そうした多様なシチュエーションに柔軟に対応できる、時代時代に合ったテーブルマナーに応用できる力を身につける必要があるでしょう。

 

 

教えて!

     Q フランス料理とイタリア料理のどちらがフルコースの品目が多いの?

A フランス料理の方がフルコース料理の品目が多いです。過去の歴史の中でフランスが先にテーブルマナーを確立したのですがイタリアが先にフルコースをしまったため、それに負けないフランスの料理を作りたいとの考え方からフランスの料理の方が品目が多くなったと言われています。

 

Q パンを直接テーブルに置く?

A 一般的にはパンが出る時はその皿が用意されているものですが、17世紀のフランスでは、純白のテーブルクロスに直接パンを置くのが上流階級のあかしであり特権とされていました。現在でもその名残で置く場合もありますが、それはクロスの美しさのアピールと言われています。

 

Q どこの国のマナー?

A その当時、イギリスではフランス式のマナーを教わっていました。まだイギリスで正式にフランス式のマナーが浸透しないうちに、日本がイギリス式マナーを学んだため、イギリス式とフランス式が混在した形で日本のテーブルマナーができてしまったと言われています。